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名古屋高等裁判所 昭和28年(ネ)76号 判決

控訴代理人は原判決を取消す、控訴人が名古屋法務局昭和二十七年九月五日受付第二〇、六三九号仮処分登記嘱託に対する同局登記官吏の却下決定に対し為した異議申立につき、昭和二十七年十月一日被控訴人の為した却下決定を取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は何れも原判決事実摘示と同一であるから茲に之を引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が別紙目録<省略>記載の不動産につきその所有名義人たる訴外原千枝子を被申請人として名古屋地方裁判所に仮処分の申請をなし、右仮処分命令が発せられて仮処分登記嘱託書が控訴人主張の日時名古屋法務局登記官吏に到達し受付第二〇、六三九号として受理された事実、訴外原千枝子が該不動産につき訴外原節子に対する所有権移転登記申請を同日同法務局登記官吏に対してなし、同日受付第二〇、六一九号として受理された事実、右登記申請に於て登記義務者原千枝子は該所有権の登記済証を滅失したと称して不動産登記法第四十四条所定の保証書を提出した事実、之に対し控訴人は該申請登記完了前右滅失の申出は虚偽である旨、右原名義の登記済証を提出して登記官吏に申告したが、同官吏は之に対する審査をしないで右所有権移転登記を終え、次で前記仮処分登記嘱託は嘱託書の登記義務者の表示が登記簿に符合しないとの理由で却下したこと、右却下決定に対し控訴人は被控訴人に対し異議の申立をしたところ原決定には違法不当の点はないとして却下された事実は何れも当事者間に争がないところである。

控訴代理人は登記済証が滅失したとの訴外原千枝子の申出は虚偽であり、此点について控訴人から通告があつたに拘らず何の審査もしないで登記官吏が右申請を受理して為した登記処分は違法であり無効である。従て此登記に依り登記簿上生じた所有名義人の変更に基き嘱託書と登記簿の登記義務者が一致を欠くものとして登記嘱託を却下した原決定は違法であると主張するから案ずるに、

不動産登記法第三十五条第四十四条を対照すると右第三十五条に於て登記を申請するに際り、登記義務者の権利に関する登記済証を提出せしめるのは登記義務者が通常之を所持する点に着眼し、之を提出せしめることに依り登記義務者が登記簿上に登記せられあるものと同一人であることを確めんとする趣旨に外ならないのであつて、第四十四条は第三十五条に対する補充規定と解せられるから同条に所謂登記義務者の権利に関する登記済証が滅失したときとしたのは、該登記済証を提出することの出来ない通常の場合に着目して滅失したときと規定したのに過ぎない其法意は之が滅失其他の原因に因り登記義務者が該登記済証を提出することの出来ない総ての場合を包含するものと解するを相当とする。而も登記官吏は不動産登記法第四十九条各号所定の登記の形式的要件については審査権を有するが、右以外の登記の実質的要件其他の事項については審査権を有しないし、又登記済証が滅失等に因り提出不能であるとして保証書を以て之に代へ登記申請を為した場合、登記済証が真実提出不能かどうかと云うことは右第四十九条各号所定の形式的要件の何れにも該らない事項であるから登記官吏は之が審査権はないものと謂うべきである。

然れば登記の申請には登記義務者の権利に関する登記済証を提出するか之に代るべき保証書を添付すれば足るものであつて、右何れかの提出があれば該書面の形式的要件が具備せらるるに於ては登記官吏は該申請を受理し登記を為すことを要し、登記済証が果して滅失等の原因にて提出不能であるかどうかと云うことは登記官吏の審査すべき事項ではないから、此場合他から登記済証の滅失は虚偽であるとの申出があつても登記官吏は之を審査すべき権限も義務もないのみならず、之に基き為された登記は固より適法且有効であると謂わなければならない。従て本件に於て訴外原千枝子の申請にかゝる前記保証書に依る本件不動産に対する所有権移転登記申請は前段説明の理由に依り適法であつて、該申請に基き登記官吏が為した登記処分も勿論有効である。控訴代理人は権利に関する登記済証が滅失しないのに滅失したと虚偽の申立を為し、保証書を添付して為した登記申請は不動産登記法第四十九条第二号か第四号の場合に該当するから該申請を却下すべきであると主張するけれども、右第四十九条第二号の事件が登記すべきものに非ざるときとは民法其他の法令に依り認められない事項の登記を申請する場合であり、又同条第四号の申請書の方式に適合せざるときとは、登記申請書の記載要件に関する欠缺の場合であつて、本件の場合は右の何れにも該当しないこと明かであるから右主張は採用しない。而して訴外原千枝子の右登記申請に基き登記が為された結果登記簿上に登記義務者の変更を生じ、右訴外人の申請後受付けられた控訴人の本件仮処分登記嘱託はその嘱託者の登記義務者の表示と登記簿の記載と符合しなくなり、不動産登記法第四十九条第六号の場合に該当することとなつたのである。尤も控訴人の仮処分登記嘱託が名古屋法務局に受理された当時はまだ訴外原千枝子の右申請登記は完了しておらず、従て登記簿上の登記義務者は依然として右原千枝子であつて嘱託書の登記義務者と符合していたことは控訴人主張の通りであるけれども、登記官吏は受付番号の順序に従つて登記を為すことを要し、且登記の形式的要件を具備するや否やは登記申請の時を基準とすべきではなく、当該登記を現実登記簿に登載するときを基準として審査すべきものと解するから、同一不動産に対し登記義務者を同一人とする相容れない二個以上の登記申請があつた場合後順位者の登記申請当時形式的要件に欠くるところがなかつたとしても、先順位者の登記が為された結果後順位者の登記が為されるときには、その申請が形式的要件を欠くに至ることもある訳で此場合此欠缺を補正し得なければ該申請は要件欠缺の理由の下に却下せられることは已むを得ないところである。本件も右の場合に該当し、不動産登記法第四十九条第六号の事由ある場合であるから控訴人の登記申請を却下した原判決は相当であつて何等違法の点はない。従て右却下決定を認容した本件異議却下決定にも毫も違法はないから、控訴人の本訴請求は、爾余の点の判断をまつ迄もなく失当であつて棄却を免れない。而して原判決の為した不動産登記法第四十四条の保証書を以て登記済証に代へる場合の解釈及登記済証の滅失の有無につき、登記官吏は審査義務ありと解した点は当裁判所の是認しないところであるけれども、原判決が登記官吏の本件仮処分登記の嘱託を却下した決定並被控訴人の之に対する異議を却下した決定を何れも適法として控訴人の本訴請求を棄却した点に於て当裁判所と結論を同じくするから結局本件控訴は理由ないことに帰着する。仍て民事訴訟法第三百八十四条第二項に則り之を棄却し、訴訟費用の負担につき同法第八十九条第九十五条を各適用し主文の通り判決する。

(裁判官 北野孝一 石谷三郎 小沢三朗)

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